クーリエ・ジャポン 2011・9月号より

業界関係者の内部告発でわかったシェールガスの「不都合な真実」
公表された埋蔵量は“絵に描いた餅”か

新たなエネルギー源として期待を集めるシェールガスだが、業界内からは“バブル”に過ぎないという声も聞こえ始めた。
(The New York Times / text by Ian Urbina)

天然ガスを採掘する企業は、掘削中のガス井が大きな利益を生み、米国に新たなエネルギー源を供給するとして、この事業に大きく賭けている。だが業界関係者の数百通に及ぶメールや内部資料、ガス井数千本のデータ分析によると、地中深くに横たわる頁岩(けつがん/シェール)層からガスを採掘するのは、企業が言うほど簡単でもなければ、安上がりでもなさそうだ。

弊紙が入手したメールのなかで、エネルギー会社の幹部や弁護士、地質学者、市場アナリストたちは“楽観的すぎる予測”に対して懐疑的な見解を示し、企業が意図的に、なかには法に抵触する形で、ガス井の生産性やガスの埋蔵量を過大評価しているのではないかと疑っている。

彼らの多くは、業界の楽観的な見かたとは対照的な見解を示しており、この状況は、先の金融バブルに内部関係者たちが疑問を呈したときと非常によく似ている。
「シェールガスは本質的に利益が出ないもの」であるにもかかわらず、投資家からカネが流れ込み、「まるでドットコム・バブル」と投資会社PNCウェルス・マネジメントのアナリストは指摘する。

またエネルギー調査会社IHSドリリング・データのあるアナリストは、2009年8月28日に送信したメールにこう書いている。
「独立系アナリストたちのあいだで言われているのは、シェールガスがらみのビジネスは悪徳商法であって、採算が取れるビジネスではない、ということだ」

米国の3つの主なシェールガス層にある1万本以上のガス井のデータは、業界の見通しにさらなる疑問を投げかける。シェールガス層には確かに大量のガスがある。だが問題は、どれくらい安くそれを採掘できるかだ。

もし業界が周囲の期待に沿えなかった場合、その影響は大きい。連邦議員や州議会議員は、低コストのエネルギーを数十年間、供給してくれることを期待して、天然ガス事業への助成金を大幅に増加することを検討しているからだ。

また、もし天然ガスの生産コストが最終的に、予測以上に高くついた場合、地主や投資家、金融機関の投資金が回収不能になる。そして消費者は、より高い電気代を払うことになるのだ。

さらに環境への影響も懸念される。「水圧破砕技術」と呼ばれるシェールガスの採掘方法は大量の水を必要とし、ガス井1本あたり約380万リットルもの水を必要とすることもある。だが、この一部は作業工程で汚染されるため、処理しなくてはならない。もしガス井が予測より早く枯渇した場合、企業はさらに新たなガス井を掘ることになり、結果としてさらに多くの汚染水が出ることになる。

大手石油・天然ガス企業を退職したある地質学者は今年2月、シェールガスに投資したある企業についてこうメールに書いている。
「これらの大手企業はいま、エンロン(2001年に破綻した米国のエネルギー企業。株式市場の信頼性を揺るがすほどの巨額の不正会計が発覚し、倒産に陥った)と同じ経験をしており、真実を隠蔽しようとしている」

元メリルリンチの株式仲売人で、ダラス連邦準備銀行諮問委員会のメンバーであるデボラ・ロジャーズは2009年10月、シェールガスを開発する企業のガス井のデータを調査し始めた。だが、どうしても数値が合わなかったとロジャーズは言う。彼女の試算では、ガス井の生産量は企業の予測より早く低下していることを示していた。
「ガス井がすぐに枯渇してしまうため、企業はコストが極めて高い事業を運営していることになります」とロジャーズは2009年11月17日、ヒューストンの石油地質学者に宛ててメールを書いた。するとこの地質学者も同意を示したという。

採掘バブルが崩壊した街

テキサス州フォートワースの住人はその頃すでに、天然ガス業界の収益が当初の見込みほどあがらない事実に動揺していた。

2008年初頭、エネルギー企業各社はシェールガスのガス井を掘るため、フォートワースの住民から土地を借りようと、リース権の争奪戦を展開していた。高速道路沿いの看板には「まだ“ガスリース”をしていないなら、いますぐリースを!」という広告が掲げられた。エネルギー企業のなかには、掘削権を得るために土地のリース料として1エーカー(4000平方メートル)あたり2万7500ドル(約220万円)もの大金を申し出るところもあった。

俳優のトミー・リー・ジョーンズは、出演したチェサピーク・エナジー社のCMのなかで、フォートワースとその近郊に広がる巨大なシェール層の開発についてこうアピールした。
「長期にわたるメリットのなかには、新たな雇用の創出、道路や学校、公園などの建設につながる資本投資や、鉱業権付与によるロイヤリティなどがあります」

また各社は投資家に対して、高度な技術を導入して生産モデルの質を上げたことで、長期にわたって収入を得ることが期待できると主張した。ウォール街にとってもシェールガスは、まさに求めていたものだった。「ローリスク、ハイリターン」のエネルギーとされているからだ。

だが2008年末には、景気後退によって、天然ガス価格がそれまでの約3分の1に下落。天然ガス事業は成立しなくなった。エネルギー企業は、数千人の住民に申し出た高額のリース契約を撤回し、集団訴訟へと発展することになった。そしてこうした状況悪化の影響は、瞬く間に広まっていった。

ブームが一変して崩壊する事態に、ロジャーズのような人々やエネルギー・アナリスト、地質学者たちは驚き、ガス井の生産性に関する調査を始めた。

シェールガス・ビジネスに対する疑念は、エネルギー企業の内部でも持ち上がっている。
「社内のエンジニアは、ガス井は20〜30年にわたって生産可能と予測しているが、私の見解ではこの事実を裏づける証拠は不十分だ」と、チェサピーク社の地質学者はあるメールで指摘している。さらに彼はこう明かしている。
「実際、開発初年度における生産量の低下の割合を見ると、懐疑的にならざるを得ない」
「シェールガスを掘っている企業はどこも、損失を出しているか、わずかな利益を上げているかだ」

だが、この一連のメールが書かれた同時期に、同社のオーブレイ・マクレンドンCEOは投資家に対して、「天然ガス事業の未来は明るい」と述べている。

また、テキサス州で大規模な開発を行っているコノコフィリップス社のある地質学者は、2009年9月、同僚に「シェールガスは世界最大の不経済なガス田になるかもしれない」と警告するメールを送った。しかし、その約6ヵ月後に同社のジェームズ・マルバCEOは、「シェールガスは多くの場合、低コストな資源だ」と公言している。

投資家にとって大きな魅力なのは、企業が報告するシェールガスの埋蔵量の規模の大きさだ。だが埋蔵量の予測は非常に難しく、初期の予測は、2008年のときのようにガス価格が急落すると下方修正されることがある。

一方、埋蔵量を水増し計上することは投資家を誤った方向に導くため、国際的に違法とされている。しかし2009年以降に業界内で交わされたメールのなかには、埋蔵量を水増し計上している企業があるのではないか、と疑う内容のものがある。エネルギー産業専門の投資会社アイヴィー・エナジーの幹部は、2009年に送ったメールでこう書いている。
「公表されるシェールガスの埋蔵量に関して上場企業のあいだで怪しい動きがあるのを感じていませんか?」

一方、企業が州の監督機関に提出した生産データをみると、多くのガス井で、業界が期待していたほど生産性が上がっていないことがわかる。米国の3つの主なシェールガス層で実際に利益が出そうなのは、企業が当初、ガスが豊富にあると予測したエリアの20%以下に過ぎない。

あるエネルギー企業で働く元エンロンの幹部は2009年、「いつになったら彼らは、シェールガス開発は当初の見込みとは違っていたと本当のことを言うのだろうか」とメールに書いている。さらに彼は、シェールガスを採掘する企業の行動は、彼がエンロンで体験したことを思わせると指摘している。
「この種のデータは“シェールガス革命”が過大評価されていることを否定するのをますます難しくしている」

こう指摘するのは、ヒューストン在住の地質学者、アート・バーマンだ。彼は石油会社に20年間勤めた経験があり、シェールガスの採算性に最も懐疑的な専門家の一人だ。

シェール層のなかでいち早く開発が始まったテキサス州のバーネット・シェール層は、シェールガスの将来性を予測するうえで最も信頼できるデータを提供してくれる。それによると、もしガス井の生産量がこのまま低下し続ければ、ガス井の多くは10年から15年以内にビジネスとして立ち行かないものになる。

「すべては金儲けのためだ」
こうメールに書くのは、資源探査大手シュランベルジェのある社員だ。昨年7月、彼は連邦監督機関の元職員に宛てて送ったメールのなかで、ガス井の生産性を「最低だ」と酷評し、「企業は“潜在能力”を売りに金儲けをする」と指摘している。そして、メールはこんな文章で締めくくられている。
「企業は常に、利益を吸い上げる術(すべ)を心得ているんだ」

 

 

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