世界商品と子供の奴隷 多国籍企業と児童強制労働
から抜粋 

‥‥この本では現代世界の最底辺に押し込まれている「子供の奴隷」の実情と、さまざまな基軸的商品(世界商品)の生産・流通を支配して巨大な富を独占的・寡占的に蓄積している世界企業(多国籍企業)の活動との関連に分析の主眼を置き、その両者と私たち日本人の日常生活との関わりを省みるという観点を出発点としたい。こうした観点からみると、いまの私たち自身の毎日の生活が、実際には如何に異様で冷酷で破滅的な歴史・経済システムの上に成り立っているかが思い知らされることになる。

ごく大まかにいうなら、世界の富の八割は世界の一割ないし二割の富裕層によって保有されているという。現在、人類が宇宙の物質や運動源について観測できているのはほんの一割ていどで、実際に宇宙を構成し進展させているのは未だ観測の手段さえ見当のつかない「ダークマター」であるが、今日の世界経済や国家、社会の成り立ち・変貌もまた、膨大な「ダークマター」に支えられ包み込まれていると考え至らなくてはならない。‥‥

(参考)宇宙の96%がまだわからない

‥‥世界の供給の43%を提供するコートジボワールでは、60万にも達するカカオ農場が同国経済の3分の1を支えている。2000年にイギリスのBBCが調査を行ない、そのコートジボワールのカカオ園には何十万人もの子供たちが雀の涙ほどの値段で両親から買い取られて奴隷として売られている実情を伝えた。子供たちはマリやブルキナファソ、トーゴ出身者が多い。何の知識もない両親たちは、子供たちがコートジボワールヘ行けば、少しはまともな職にありついてやがては送金をしてくれるようになると信じ込まされている。

実際には子供たち(通常は12歳〜14歳、時にはもっと年少の幼い児童もいる)は、一週につき80時間から100時間まで、厳しい手作業を強要されこき使われている。かろうじてわずかな食費が出るていどで、しょっちゅう叩かれ、脅され、逃げようとでもすればこっぴどい折櫨を受ける。逃げようとするならば、拷問に近い仕打ちまで課せられることもある。ほとんどの子供たちは、プランテーションに送り込まれれば、その後家族と会うことは二度とない場合が多いという。昔の欧米の奴隷主は自分の財産を示すためにさまざまな文書に奴隷のことを書きとめることもあったが、現代のアフリカの子供奴隷については文書らしき文書はほとんど残されない。使い捨てにされ死んでいった子供のことなど、誰も何も分からないのである。

子供たちは、賃金を支払われず、暴力や脅しによって働かされつづけ、死ぬまで奴隷にされる、という三つの「遺産」を先祖から受け継いで一生を終わることもある。そして、誰でも知っている通り、子供は栄養失調で体が骸骨のように痩せ細っているというのが「当たり前の風景」である。こうした過酷なケースが大部分とはいえないまでも、以上のような極端な事例も含まれてチョコレートやココアが日本をはじめとした先進諸国に送られていることは知っておく必要があるだろう。‥‥

‥‥旧ソ連内にあった多くの近隣諸国と向様、ソ連崩壊はキルギスタン炭坑業の崩壊をもたらした。インフラの整備はなおざりにされ、鉱山も人も棄てられたのである。その犠牲になったのが子供たちであった。子供たちは学校をやめさせられ、少しでも多くの石炭を集めるよう言いつけられることになった。十分な設備や装備がなくなったため、掘ることができる坑道は狭くなり、体の小さな子供が徴用されたのである。いったい何人の子供が炭坑に押し込められているか、政府は事実自体を認めず調査もしないため誰にも分からない。BBC 記者が調査したどの炭坑でも多くの子供が居たというのであるから、子供の徴用が例外的な事例でないことは確かである。

キルギスタンの炭坑の子供たちは夏の暑い日も冬の氷点下の厳寒の日々も休みなく働かされている。粗末な装備の炭坑で問題となるのは排水問題であるが冬にも時々、坑道の奥深くまで排水ポンプを運ぶために子供たちは冷たい身を切るような氷水の中を泳ぐことになる。「政府の援助が欲しいのはやまやまであるが、政府に嘆願すれば廃坑にされるのは目に見えているため、誰も公的な援助はあてにしようとはしない。他の仕事を作ることができないのなら、鉱山労働をもっと適切なものに改善するのが当然です」というのが地元NPO スタッフの嘆きである。

落盤事故も死亡事故もしょっちゅうのことであるが、事故で父親を亡くした家族の窮状は子供を鉱山に追いやる典型的な事例である。BBC 記者は、二人の子供を鉱山に行かせたある寡婦から涙ながらの証言を引き出している。「どんなに節約しても五人の子供を抱えて一日二ドルの生活はあまりにも苦しい。鉱山主が夫の仕事を10歳の息子たちに引き継がせろと言ってきたので、そうするしかなかったの。狭い坑道に入れるのはあの子しかいなかったから。学校もやめさせてしまったわ。本当なら、もうこんなところには住みたくはないのに・・。」

この寡婦の夫が働いていた鉱山までは歩いて40分ほどかかるが、取材した記者が寡婦の家に着いた時、ちょうど子供たちが重い荷物をロバの背に乗せているところだった。子供たちの小さな手は、みなタコができてぼこぼこに膨れ上がっていた。その手を見るだけで、彼らの仕事がどれほどの重労働か、すぐに察しがつく。ガス爆発、粉塵の充満、坑内火災はどこにでも起こり、危険且つ不衛生な重労働である。子供らしい幼児期をほとんどもたないこうした子供たちの夢は、例えば「警察官になって図っている子供たちを助けたい」というものである。‥‥

‥‥ディズニーがのこしたディズニーランドは、児童労働と関わって、今やディズニーの天真爛漫な人柄とは全くかけ離れた一面をもつに至ったと感じざるを得ない情報や報道が幾つかある。ここではその一部を紹介する。

最近のディズニー映画のヒット作といえば、実際のカリブ海の歴史を一般庶民の目から全く忘れ去らせてしまう「作り」になってしまっている『パイレーツ・オブ・カリビアン」であるが、そのカリブの海に浮かぶ小国ハイチには、ディズニーのキャラクター製品を生産する工場がある。搾取工場の最も典型的な例といわれるもので、ここで働く労働者の受け取る時給は1時間当たり最高28セント。12歳ていどの子供たちも朝早くからアラジンT シャツなどをせっせと縫わされている。できたシャツはきれいに包装され出荷され先進国のディズニーショップに送られてゆくが、ハイチの子供たちが働く環境は薄汚くみすぼらしい作業場である。稼ぐことのできる金額は、税金を引かれて手元に残るのが月にせいぜい15ドルから20ドル穏度、子供は大人の3分の1の賃金で、女の子はよくても時給28セントという。食料品価格がすこぶる高価であるため、住むための粗末な小屋でさえも借りることは困難である。水道設備のない小屋を借りるのにも、ハイチでは月に20ドルは必要だからである。家庭によっては、子供たちは生活してゆくどころか、生きることすらままならないといった状態にもなっている。電力不足で冷房設備はもちろんいうまでもなく、換気薦、もなく、貴重品のため洗面所利用は日に2回だけ、一日最高22時間労働という事例もあり、休みは9ヵ月間に3日だけという。平均労働時間は一日13〜15時間である。

アジアの途上国でもまた、ディズニー製品製造のための工場が建てられており、2005年に「ウォルト・ディズニー社における児童奴隷労働Child Slave Labor in the Walt Disney Company」を公表したフレデリック・コップは、「世界の奴隷労働のほとんどのものはこの10年間、アジアの中でつくり出された」と書いている。不満を言えばすぐ解雇、妊婦は雇われず、従業員の多くは10歳から30歳の子供か女性というのがお決まりの形である。ディズニーランド内のファストフード店で渡される「おまけ」のプラスチック玩具などを生産するのは、ベトナムにつくられた搾取工場である。こうしたキャラクター玩具は、マクドナルドのハンバーガーショップで子供向けのメニューの「おまけ」として人気をよぶこともある。この工場の従業員は、一日当たり10時間、一週当たり7 日間働く。これは、平均的なアメリカ人のほぼ2倍の週間労働時間に相当する。さらに、有害物質によって病気にかかるなどの悪条件にも拘わらず、多くの人々は1時間当たりわずか17セントしか与えられない。先にみた中国のナイキの工場Wellco」と同じ金額である。2002年にアセトン被害で200人もの女性が病院送りになった際にも、換気対策や衛生改善規定の見直しはされなかったという。

ミャンマー(ビルマ)の例を挙げれば、さらにディズニー関連工場の問題点、が一層はっきりとみえてくる。1984年から2005年までウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOを勤めたマイケル・アイズナーが1時間に得た収入は10万2000ドル、ディズニー社の総資産は500億ドル以上、それ対してミヤンマーの工場でディズニー製品のために働いた人々が受け取ったのは、時給わずか6セントである。肉体的、身分的に奴隷でなくとも、19世紀の思想家が「賃金奴隷」という用語で非難したイギリス国内の劣悪な労働が、世界に広まったとみて何ら差し支えはない。「少しでも貧しい人たちに職をわけてあげているのではないか」という意見もあるが、6セントと5OO 億ドルの差を納得させるような意見ではない。電灯の消し忘れなど軽微なミスを含め、不行き届きがあると罰金は60セントから35ドルなどという例があるとするなら、何をか言わんやである。

さまざまな訴えやアメリカ議会の働きかけもあって、一時は待遇改善の動きもみられるが、より低賃金で人の扱いも自在にしやすい中国にハイチの工場を移転するという「逃げ」の対策が取られただけであった。これはアイズナーが採用した経営戦略である。

筆者の世代にもなじみの深い「101匹ワンちゃん」のキャラクター・シャツや「ライオン・キング」のシャツを作るのはタイのバンコクなどの子供たちである。週72時間労働で、中国の子供たちの週60〜90時間労働という数値と比べてみると、ディズニー社の経営方針の中でかなり明確な(そして冷徹な)コスト軽減戦略がグローバルに徹底されて指示されていたのではないかという思いが湧く。過重労務で気絶する子もいれば怪我をする子、病気になる子もいるが、健康保険も何の保障もないのは当たり前である。3章で名を挙げた中国広東省の深せんにあるThe Hung Hing Printing Limited Corporationではディズニー関連の児童書も作られているが、プレス機での手の切断事故、感電死、製本機械での圧死などの例が報告され、
「2004年度労働災害の多い企業トップ30」の第一位に選ばれている。日本の旅行会社JTB のホームベージで、「中国南部、広東省の南端に位置し経済特別区として中国経済の発展に貢献した町。高層ビルが建ち並ぶ近代都市で、暖かくピーチリゾートが次々と開発され、観光開発も急ピッチで進められている」などと紹介され、中国では香港、マカオに次いで「所得が高く」、2003年の一人当たり国民所得は13万6071人民元(約1万6430米ドル)という「優等都市」がこの深せんである。
「優等都市」というより、「アメリカ型の特区」といった形容の方がふさわしいと思えるのは、筆者ばかりではあるまい。そのアメリカ型の経済社会が、過度に競争的で差別的で極端な格差社会という実体をもつことは、今ではかなり広く知られている。

ディズニー社は2008年現在に至って、同社ウェブサイトで以上のような問題に関わる良心的な対策を公表しているが、右に挙げた一つ一つの事例についての説明やコメントは見つけることができない。

なお、ディズニー社は現在、世界最大級のメディア・エンターテインメント系総合企業として存在しているが、その影響が先住民社会やアメリカ以外の国家の文化や子供の思考の在り方に如何に決定的なネガティヴな結果をもたらす危険を苧んでいるかについて、アリエル・ドルフマンとアルマン・マトゥラールが『ドナルド・ダックを読む』というなかなか興味深い書物を著している。それによると、ミッキー・マウスに並ぶ人気者のドナルド・ダックとは「田園の中で夢のような生活を送ることを理想とする」主人公であり、生産や公害、両親との生活的な関わりなどとはまったく無縁のコミカルなキャラクターである。ドナルドの世界、ディズニーの世界には、「生産」や「生活」の実体は存在せず、モノは自然が自然に生み出すもの、人間はただそれを友情やチャンスやドタパタ騒ぎの中で手に入れればよいだけである。多くのハリウッド映画と同じように、価値のある富は地中に埋められており、テクニックやアイデアをもち、要領が良くて幸運な連中がそれを「発見」して金持ちになる。この世界には善人と悪人しかいない。そしてその悪人とは、私有財産制を侵す者、せっかく手に入れた既得権や特権を危うくする者、総じて今あるこの世界にやっかいごとをもち込む者のことである。騒動は、(現実にもママあることではあるが)素っ頓狂なジョークやケンカによって解決される。‥‥

(参考)ディズニー社による児童奴隷労働

‥‥臓器を盗られる子供たち

イスラム諸国のうち、ジブチ、レバノン、サウジアラビアなどの実情を調べてみると、子供たちが人身売買、臓器売買の犠牲になり、少年兵・少女兵も稀ではない事情が浮かび上がってくる。多くの少女がストリートで物売りをするのに使役されていることも知られるが、関連資料の原文に「vending」とあることから自動販売機のような、要するにモノとしての扱いが感じられる。ヨルダンは特に家父長制的権威主義の弊害が未だに濃厚で、例えば、幼なじみの青年と結婚したいと父親に告げた少女が叔父にガソリンをかけられ火を放たれたといった時代錯誤の理不尽な虐待が知られている。女性が結婚問題に口出しすることや自由恋愛は「もっての他」の不届きなこととして、未だに抑圧されているのである。レバノンなどでは、平均して子供たちの四割は一日につき10〜14時間働かされ、賃金らしい賃金はほとんどもらってはいないという。

サウジアラビアでは強制重労働、児童売春、内臓摘出のための誘拐がモスク近隣の繁華な広場で半ば公然と行なわれ、ベイルート、マニラ、リオ・デジャネイロにある「奴隷市場」で「自由に」人身売買が行なわれていると書く資料もある。その人身売買される犠牲者の数は、世界で年間60万〜80万人に上る(アメリカ国務省、2004年統計)。この数には、貧困等から仕方なく売春に身を落とす少年・少女は含まれていない。1976年度の国連奴隷制作業部会のノルウェー委員会の報告では「少なくとも100万人」、国際労働機構ILOが同年5月に発表した調査報告書では「少なくとも、240万人は人身売買の犠牲者」とされていて、実数は誰にも摘めないのが実情である。人身売買業の市場規模は320億ドルとみる国連資料もあるが、これも確かな数値とは言い難い。ちなみに、この320億ドル市場に対して、2006年、アメリカ政府が世界70ヵ国の人身売買防止計画に支出した支援金はおよそ7400万ドルである。

石油メジャーとの結びつきによって莫大な富を蓄積し、王制の維持、イスラム法の堅持を基本方針とし、国王が閣僚会議を主宰、重要ポストはすべて王族が占めるサウジアラビアは貧富格差が大きく、児童労働に関しても特に問題の多い国であるとされている。バングラデシュ、タイ、インド、ベトナム、インドネシア等から売られた女性が性的搾取を余儀なくされている。外国人犯罪組織が奴隷として子供を買い付け、広場で物乞いをさせる事例もある。

ラクダのジョッキーとして誘拐された幼児が奴隷にされ、賭博レースに出されているのはニュースに取り上げられたこともあり邦語文献でも若干の紹介がある。人身売買では子供たちは身柄をそっくりそのまま売られるが、更に冷酷なのは臓器売買のケースである。臓器を盗られる子供たちの信じ難いような悲惨な実情の一端は、以下の通りである。

子供たちは東南アジア、あるいは中国の雲南省まで「産地直送の荷物」として運ばれて行く。人体をバラバラに解体し、臓器移植用の臓器として冷蔵空輸するのは技術的に極めて難しい。しかも非合法な内臓売買であるから荷物チェックの際に問題とされることになり、人体を解体して空輸する事は不可能に近い。そこで海外旅行や養子縁組やメッカ巡礼を装って子供は生きたまま「産地直送」される。子供は目的地に着くと手足を縛られ腹部をメスで切り裂かれ、全て内臓を取り出され、待ち構えていた病気の金持ちたち(ほとんどが多国籍企業の重役や経営者たちという)に臓器を移植される。もちろん子供は、その場で苦しみながら死ぬ。必要な臓器を取り出すことと金儲けが目的であるから、麻酔がかけられるようなことはほとんどない。殺してしまう子供は「臓器の一部」、しかも「余分な廃棄部分」としかみなされず、麻酔のコストなどは節約される訳である。子供の死体は強硫酸などで溶かされ下水に流すか、焼却されて土に埋められる。まさに閣に葬られる訳で、警察も国際調査組織もなかなか手がかりさえ摘むことができない。アリストテレスの時代から「奴隷は家畜同然」といわれてきたが、この場合は子供は生き物とさえみなされていない。カネに目のくらんだ人種差別主義者やカネに糸目をつけない大金持ちたちは、自分の利益や自分の命のためなら、こうしたことを平気でビジネスにしてしまうのである。中国やブラジルやフィリピンなどには、先進諸国の医療・製薬機関向けの臓器密輸のかなり大がかりな組織もあるといい、今や子供の臓器までもが忌まわしい世界商品となっているのである。‥‥

 

 

 

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