自由貿易は、民主主義を滅ぼす」から抜粋

経済のパイを拡大したり、それぞれの国が得意な分野に特化する場合には、自由貿易は良いシステムだと思います。実際歴史的に見て、自由貿易がうまく機能した時代もありました。とくに第二次世界大戦後の時代がそうでした。

では現在、われわれはいかなる時代を生きているのか。それを理解するためには、まず戦後の経済を振り返ってみる必要があります。

まず1970年代まで続く経済繁栄の時代がありましたが、当時は、経済がまだナショナル・レベルで発展していました。そこでは、財界の指導者、そして組合も、戦争の歴史から得た教訓を活かしていた。経済は、生産と消費の関係に基づいて運営され、とくに当時の経営者たちは、自分たちの労働者の給料、賃金を上げれば、同時に需要も上がることを理解していた。ですから技術革新によって、生産性を上げ、賃金を上げることによって、需要をさらに刺激することができた。

その後、国内だけで完結していた経済が、次第に自由貿易に移行していきます。もちろん当時は、自由貿易による恩恵がありました。それだけ市場のパイが拡大したということです。

けれどもそのように自由貿易に移行する中で、少しずつそれまでの慣行やメンタリティが変わっていきました。とくに企業は、国内市場ではなく、国外市場に向けて生産するようになる。そうなると、「企業が支払う賃金は、国内需要を生み出すものだ」という意識が希薄になっていきます。むしろ賃金は、ただ単にカットしなくてはならないコストとしてみなされるようになる。そしてさらには、すべての国、すべての企業が賃金を単なるコストとみなすようになる。こうして世界全体の需要が縮小していきました。

自由貿易は、元々19世紀に始まった資本主義の古い考えに基づいて始まったわけです。自由貿易によって経済活動をし、発展すれば、賃金も上がり、需要もつくられる、と。これは、賃金の低い新興諸国がない世界では、実現可能なモデルですが、現在は中国のような新興国に、非常に低い賃金で働く労働者が膨大にいる。そうなると、このモデルは壊れてしまう。実際、国際規模での給与水準は下がる一方です。その結果として、世界規模で需要不足が生じている。

同様のことが、この数年間に起こった金融市場での異常な投機にも言えます。自由貿易の結果、すべての国において不平等が拡大しました。経済格差が世界的な規模で広がっている。各国の再上層部、超富裕層がこれ以上は不要だというような富をさらにいっそう集めている、そこだけに富が集まっているという状態が、各国で起きている。富の資源となるものが、すべて超富裕層に集まってしまっているわけです。しかし、そうしたお金の流れも、最後にはアメリカの金融市場に流れて、今回の金融危機のように、結局はすべて蒸気となって消えてしまいます。

 

 

 

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